神戸ではたらく中年エンジニアのブログ

震災後に神戸で働きだしたジジイです。DBシステム、プログラムに機械装置、なんでも作ります。

読書感想文

「ハチはなぜ大量死したのか」ローワン・ジェイコブセン

ハチはなぜ大量死したのか 原題は「Fruitless Fall(実りなき秋)」なので、レイチェル・カーソンの「Silent Spring(沈黙の春)」とかけているのだと思います。 自然破壊に対する啓蒙書なのか、はたまたミツバチ大量死という事件の謎解きミステリーなのか。どち…

「サイゴンのいちばん長い日」近藤紘一

ベトナム戦争というと、いままでに大して詳しい説明を聞いたこともないし、学校の先生に教わった覚えもありません。ただ、アメリカの戦争映画でその悲惨さと、不条理さだけをつきつけられただけです。どたばた劇が多い中で印象に残っているのは、高校生のと…

「大本営が震えた日」吉村昭

太平洋戦争はいわゆるパールハーバー、日本軍によるハワイ諸島奇襲攻撃で始まるのですが、「奇襲」というからには、敵に悟られずに戦争の準備をしていくという苦労があったわけで、その辺のことを様々な史実から書いています。ちなみに、ちょうどこれを読ん…

「マエストロ」篠田節子

「だからベートーヴェンはいやだ。瞬間瞬間の音も、和声も驚くほど簡明だ。アクロバティックな技法はない。それゆえ、音の一つ一つをダイナミックに歌わせる弾く側の気力と、構成力が要求される。 最初のスフォルツァンドは鋭いアタック、そして次のスフォル…

「量子コンピュータとは何か」ジョージ・ジョンソン

現代物理学で最大の発見といわれているのが、相対性理論と量子力学です。相対性理論は有名ですね。空間がゆがむとか時間が遅くなるとか、なんとなくわかるような気がします。ところが、量子力学はわかりにくい。なにしろ、量子論の基礎を考えたファインマン…

「牙―江夏豊とその時代」後藤正浩

この著者の作品って、取り上げる題材はいいんだけど、全然つっこみが足りないんすよね。 随所にみられる、上から見下ろすような文章と、なんでも知ってるぞみたいな、欺瞞さえ感じる表現。ノンフィクション作家としてはどうなんでしょう。えらそうなんすよね…

「最後の相場師」津本陽

原題は「裏に道あり-『相場師』平蔵が行く」1983年の刊行ということですから、ちょうどバブル期ですね。株式とか金融とか、そんなんが流行する周期があるのでしょうか、最近はネット取引も盛んですから、せっかく貯めた小金を手数料でとられる人が多く…

「松ヶ枝町サーガ」芦原すなお

この作者はとても文章が上手です。でもって、子供時代の滑稽さとかやさしさとか残酷さとか、イノセントな部分をうまく書き出していると思います。戦後すぐの子供達の生活。野球やメンコに夢中になっていた頃のお話です。今50歳くらいの人が読むと、とても懐…

トリビュート・トゥ・オズ

「トリビュート」というのは「捧げもの」という意味で、亡くなった人への敬意を込めた贈り物のことだと思っていたのです。追悼版っていう感じでしょうか。 で、とても昔ですが、オジーオズボーンの「トリビュート・トゥ・ランディーローズ」というアルバムが…

「怪しい来客簿」色川武大

彼岸と此岸(しがん)を行き来する、「怪しい来客」たち。筆者はその間の世界で、彼等の声を聞き、やがてはそこに仲間入りするであろう、自分の姿を見ます。 たいていの人にとって、死というのはやはりこわいものだと思うのですが、その「死」に、いつも近い…

「オルゴール」伊集院静

「伊集院ワールドの傑作ばかりを集めた」短編集だそうですが、ぜんぜんだめ。これはあかんです、駄作。好きな作家のひとりだったのですが、がっかりです。 最初の短編「オルゴール」は非常に好感が持てて、泣いちゃったりしたのですが、そのあとはなんじゃこ…

「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」米原万里

大宅壮一ノンフィクション受賞作!なんと?この作者に、そんな骨太な作品書けるの?そんな疑問から読み始めましたが、やられました、これはいいです。 物語は3部に分かれていて、それぞれ1人づつ、3人の少女が語られています。ギリシャの青い空を夢見るリ…

「ハイテク ハイタッチ」ジョン・ネズビッツ

「未来学者」というと、アルビントフラーくらいしか思いつきませんが、この人もIBMを退職してから、独自の観点から世の中のニュースを分析し、未来を予想して「メガトレンド」という本で一世を風靡した人らしいです。 章立ては大きく2つに分かれていて、「…

「心の砕ける音」トマス・H・クック

まずは、解説文を略して引用します。長くなりますが、僕もまったく同じ経緯でクックのファンになっていること。そして、この作品への思いが、まるで自分の意見のようで、少し驚きました。 -- 最初に読んだクックの小説は『熱い街で死んだ少女』で、もう十年…

なぜ数学が「得意な人」と「苦手な人」がいるのか

前に塾の講師をやっていたとき、中学3年生の子が、どうしても因数分解がわからないということで、とことん付き合ったことがありました。その子は成績も優秀で、英語はもちろん、国語も理科社会も完璧。数学のテストも毎回いい点をとっていました。でも、因…

「竜二」生江有二

生まれてきたからには、何かをするために生まれてきたのだと思いたい。何かを残して、何かをひとに伝えて、そして死んでいきたいと思うのです。たまあに、そういう人の話を聞きます。最近では、北海道国際航空の社長、濱田輝男。事業を立ち上げて、それがい…

「慟哭」貫井徳郎

人呼んで「ミステリ界のストーカー」(ほんまかいな)高村薫が、この作品を、 題は『慟哭』 書き振りは《練達》 読み終えてみれば《仰天》 と評しております。 「逃げない」という姿勢で書かれた作品に接したとき、その作品の評価うんぬんということの他に、…

「神は銃弾」ボストン・テラン

たまに、ハードボイルド・ミステリーてやつに、浸りたくなるときがあります。で、本屋さんをざあっと見渡して、いくつか拾ってくるわけです。平積みになっていると、やはり目に付きますし、「ベストミステリー1位!」とか「CWA新人賞授賞」とか帯にある…

「破線のマリス」野沢尚

「マリス」とは、ジャーナリズムの専門用語で「悪意」という意味だそうです。報道する側が記事をつくるうえで、これを盛り込むと、報道される側にとても不利になるということですね。 主人公の瑤子は34歳のテレビ局編集マン。家庭も子供も投げ捨てて、仕事…

「ゴールドラッシュ」柳美里

「ゴールドラッシュ」て聞くと、やっぱり矢沢のえいちゃんだよね。 まあ、そんなことは、おいといて。 例の神戸の少年殺人があってから、犯罪だけでなく、現代の少年たちの抱える問題、不安な世界観、大人たちの無力さ、教育の矛盾が、一気に社会に認知され…

「白夜行」東野圭吾

いままで宮部みゆきの作品にみてきたように、ワープロを使うと、作品はつまらなくなっちゃうのでしょうか。 確かに、万年筆なんかを使って原稿用紙にがりがり書いているのと、ワープロでコピーを駆使して貼り付けていくのとでは、なんとなく作品の執念が違う…

「歳月」司馬遼太郎

幕末、明治維新を経て、明治の新政府が誕生するその時代、多くの才能ある人間が活躍しました。 江藤新平は法律の土台を作った人で、刑法はドイツ、民法はフランスを手本に、日本の法律はできていったわけですね。 「維新」が起こって、旧体制が崩れていく。…

「受け月」伊集院静

とてもやわらかい文体で綴られる、野球をモチーフにとった短篇集です。 1話目がとてもよくて、久しぶりに読みながら泣いてしまいました。電車のなかで。 受け月に祈る、人間のはかなさがとてもいいです。 スポーツに関わると、人間はとても素直になれるとき…

「漂流」吉村昭

「圧倒的」という表現が、ぴったりの小説です。ドキュメンタリーと銘打ってありますが、江戸時代・天命年間の記録を題材にとったもので、作者の特徴でもある登場人物の心理状態の描写がとても秀逸です。 時化に遭い、時間を追って崩壊していく船。結局は難破…

「リプレイ」ケン・グリムウッド

中年男がある日突然死をして、その記憶を持ったまま、25年前に戻ってしまう、というSFです。「もしも人生をやりなおせたら」というのは、SFでは古臭いテーマです。 男は競馬とかメジャーリーグの結果を知っているので、ギャンブルで大儲けします。そのお金…

「蒲生邸事件」宮部みゆき

前回、ワープロの使い方を覚えた作者が、今度もがんばって使って書いた作品です。しかも本格SFに挑戦だ!今度はきっと、用語登録とか、その辺のテクニックも使えるようになったのでしょう。長い長い。文庫で680ページもの、駄文。 内容は、タイムスリッ…

「ラッキーマン」マイケル・J・フォックス

いつも明るく、ひょうきんで人を笑わせるのが大好きで、でも涙もろくて、かわいい女の子にはいちころだ。なんて魅力のあるキャラクター。彼の名前を聞くと、すぐにそれを連想します。彼の映画も、テレビも、なんだかんだいって見てました。いい俳優ですよね…

「The S.O.U.P」川端裕人

「ソープ」でなくて、「スープ」です。 なかなか読み応えのある、ハッカー小説です。けっこう楽しんで読めます。 国際的に活躍するハッカーに、ある日訪ねてきた、経済産業省の役人と名乗る女。その依頼を受け、「EGG」と名乗るクラッカー集団のクラッキ…

「青春デンデケデケデケ」芦原すなお

青春小説、というとなんだかいい年こいて読むのもどうかと思いますが、友達、音楽、バイトに恋、高校生の明るく切ない時代。あの輝きはー、もう戻らないのねー(なんの歌や)。 高校時代を書いたちょっといい小説で有名なところでは、村上龍の「69」があり…

「Twelve Y.O.」福井晴敏

非常に力のある小説です。 街行く適当な若者に声をかける、自衛隊の手配師。その仕事をなんの情熱もなく漫然と続ける男。こんなはずじゃない、と自分の生き様を悔やみながらも、なにひとつ変えることのできない、怠惰な日々。そんな男の前に、元上官である東…